皆さんこんばんは。まだまだ暑いですが、若干空模様や日差しが秋めいてきた気もする今日この頃。
「フォーラムの空模様」コーナー33回目、今回は、同一企業傘下ではあるが競合であるはずの、Norton製品がAvast化しているらしい、と言う内容です。
元になったフォーラムトピックはこちら。
メーラーにAvastの署名が出るのでアンインストールしたいが、アプリ自体が見当たらない
https://forum.avast.com/index.php?topic=328077.0
Norton silently becoming Avast!?
https://forum.avast.com/index.php?topic=328667.0
2トピック目は、私が自分で投稿したもので、本記事の英語版みたいなものです。1つ目のトピックで気になってはいたのですが、その後も似たような話を続けて聞いたので、2つ目のトピックと、本記事に至ります。
目次
NortonとAvastの関係
既にご存じの方も多いと思いますが、簡単にNortonとAvastの関係についてお話します。
Norton
Nortonは、かつてSymantec社と言うところが開発していた製品で、ウイルス対策ソフトのシリーズであるNorton Antivirus やNorton Internet Security のほか、システムメンテナンス製品であるNorton Utilities などで有名でした。また、これら個人向け製品以外にも、企業向けの製品(Symantec Endpoint Protectionなど)を開発していました。
2019年にこれら個人向け製品と企業向け製品は会社ごと分離され、企業向け製品はSymantecのブランド名とともにBroadcom社へ売却(のちにアクセンチュア社に再売却)され、個人向け製品はNortonLifeLockと社名を変えた会社に残り、引き続き開発・販売されていました。
2020年には同業のAviraを買収するなど、事業を拡大していました。
Avast
一方Avast は、Alwil Softwareという会社が開発していたアンチウイルス製品のブランド名です。のちに社名をAvast Softwareへと変更し、Nortonシリーズ同様、システムメンテナンス製品などにも領域を広げていました。2016年に同業のAVGや、システムメンテナンス製品のPiriformを買収し、やはり事業を拡大していました。
Gen Digital
この2社が2022年9月に合併(実質的にはNortonによるAvastの買収)し、できたのがGen Digital社です。したがって、NortonとAvastは、同じ会社が持つ製品となっていました。
Norton製品のAvast化とは?
NortonとAvastがGen Digitalに移行して以後も、これら製品は従来通りの開発・販売が続けられていました。つまり、従来通りのNortonのシステムと、Avastのシステムが、別個に運営されていたのです。
しかし、ここにきて、Nortonのシステムの一部が、Avastのシステムに統合されているらしき兆候が出てきました。何を言っているかと言うと、製品名はNortonであるが、中身がAvastと(ほぼ)同じになっている可能性がある、と言うことです。
4つの兆候
最初のトピックで挙げられた兆候は2つでしたが、非常に大きなものでした。以後、小さいながらもそれを補強する兆候が出てきたので、それぞれ解説します。
①プロセス名
ソフトウェアである以上、これら製品は、特定のファイル名を持ったプロセスの集合体として構成されています(参考:Avast の関連プロセスについて(2020年版))。別個に開発されているソフトウェア製品は、当然ながら全く異なるプロセス構成を持っているはずですが、最新版のNortonシリーズ(と推測される製品)では、これがAvastのものと酷似しているようなのです。
フォーラムトピックに投稿された内容によれば、最新版のNortonシリーズでは、以下のようなプロセスが確認されます。
AvDump.exe, aswEngSrv.exe, afwServ.exe, VpnSvc.exe, aswidsagent.exe, NortonSvc.exe, nllToolsSvc.exe, NortonUI.exe
一方、Avastのプロセスは以下の通りです。
AvDump.exe, aswEngSrv.exe, afwServ.exe, VpnSvc.exe, aswidsagent.exe, AvastSvc.exe, aswToolsSvc.exe, AvastUI.exe
一見して、非常に類似していることが分かると思います。
Avast / Norton の名前の違いのほかに、asw / nll という名前の違いも見られます。これは、asw が Avast Software を意味すると考えると、nll は NortonLifeLock を意味すると考えることができます。
つまり、同じ命名規則によって作られていると判断できます。
②バージョン番号
2024年7月のAvastの内部バージョン番号は、24.7.9311.856 あるいは 24.7.9311.859 でした。一方、インターネット上の投稿によれば、最新のNortonシリーズのバージョン番号も 24.7.9311.859 であったと書かれていて、Avastのそれと同一です。
一方、従来のNortonシリーズのバージョン番号は、例えば 22.24.7.8 であったとされており、Avastのものとは異なっていました。
③スマートスキャン
Avast では、賛否は分かれるところ(と言うか否定的な意見しかない?)ですが、「スマートスキャン」を実施すると、スキャンの最後に販促として、導入している製品に応じた「高度な問題」が提示され、Avastが提供する様々な有償製品を導入するよう勧められます(既に導入済みの場合は表示されません)。
従来のNortonにも「スマートスキャン」類似の機能はあったようですが、最近のバージョンアップ以降、この販促が表示されるようになった、との投稿がありました。
④メール署名
そもそも、トピック1つ目の相談内容は、「メールに『このメールはAvast によってウイルスチェックされています』という署名が付いてしまうが、Avast 製品は導入していない」というものでした。この署名は、Avast Antivirusをインストールすると、デフォルトで有効になっているものです。そして、その相談者の環境にインストールされていたのは、兆候①のプロセスを持つNorton製品でした。
なお、相談者が提示してくれたメール署名は、製品であるNorton、和名のAvastのみならず、URLとしてGen Digital傘下のAviraの名前もついた、非常にカオスなものでした。
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このメールは、アバスト アンチウイルス ソフトウェアでウイルス チェックされています。
www.avira.com
おそらくこれは、署名を日本語に翻訳する際に何かしらの手違いがあった(※)ものと推測しますが、これは同時に、将来的にはAviraも同じ道をたどる可能性を示唆するものでもあります。
※私は以前にAvast製品の翻訳に携わったことがあります。現在は異なるかもしれませんが、当時の翻訳は文節や短い文章単位であり、どこでどのメッセージが出るのかは分からなかったため、翻訳が実際に当たってみると、不整合や違和感が生じることが時々ありました。本来は自動置換されるものを誤って翻訳者がべた書きで置き換えてしまったり、固有名詞と勘違いして翻訳すべき単語を見落としたりすると、今回のような事象が生じ得ます。
おわりに
Avast がNortonに買収されて以降、かつてAvastに買収されたAVG製品がそうであったように、ブランド名は残るものの、中身はNortonシリーズに置き換えられていくのだろうな、と何となく予想していました。しかし、ふたを開けてみれば、むしろNortonシリーズの中身がAvast化しているという、予想外の展開になっているようです。
しかし、ある意味では理解できる部分もあります。買収時点のユーザー数は、Nortonシリーズの8000万人に対し、Avastは4億人以上。Windows版だけの人数ではないとはいえ、2系統のソフトウェアの開発・運用をやめ、開発リソースを片方に集中するとしたときに、多い方に寄せるというのは、自然な判断なのかもしれません。
これが確定された方向性なのか(既に一部ユーザーがそうなっている以上、そのような気もしますが)、あるいはユーザーの反応を見極めるテストなのか、それは分かりません。ただ、Nortonユーザーはそのほとんどが有料版の利用者である以上、その要求する品質水準には高いものがあるはず。もしこの方向に進むならば、Nortonユーザーの取り込みという意味も込めて、別に今のAvastの品質が悪いというわけではありませんが、より品質の向上につながればと願っています。